海産の板鰓類は尿素を体内に蓄積することで体液の浸透圧を海水レベルに上昇させ、海という高浸透圧環境でも脱水から免れるという、ユニークな体液調節を行う。そのため、腎臓では濾過されてしまう尿素のほとんどを再吸収して、高い尿素濃度を維持している。昨年度は尿素輸送体の局在を明らかにし、尿素再吸収モデルを提唱した。 今年度はその腎機能がホルモンによってどのように調節を受けるか、下垂体神経葉ホルモン(NH)とナトリウム利尿ペプチド(CNP)に注目して研究を進めた。NHは四肢動物の腎機能に関わる重要なホルモンであり、哺乳類では水や尿素の透過性を制御する。昨年度、ドチザメが持つNHとしてバソトシン(VT)、アスバトシン(ASV)に加えてファジトシン(PAI)という新規ペプチドの存在を明らかにした。まずVTの血中ホルモン量を測定するためにラジオイムノアッセイ(RIA)系を確立した。この系はVTあるいはバソプレシンのみを特異的かつ高感度に測定できるため、すべての脊椎動物に適用可能な貴重なツールを得ることができた。このVTとCNPのRIA系ならびにVT、ASV、PAI、CNP mRNAのノーザン解析により、環境浸透圧の変化に伴うホルモン産生・分泌活動の動態を調べた。ドチザメを130%濃縮あるいは60%希釈海水に移すと、血中のイオンと尿素濃度を増減させて環境浸透圧の変化に順応する。血中CNPは濃縮海水移行1日目にのみ上昇し、急激に上昇するNaClの排出など、緊急対応的に働くのではないかと考えている。一方VTは遺伝子発現・血中量ともに濃縮海水移行2日目に上昇した。ASVとPAIの発現量および、希釈海水への移行後はどのホルモンにも有意な変動はみられなかった。このことはVTが高浸透圧環境への適応にとって重要なことを示唆し、腎機能、特に尿素再吸収との関わりに注目している。
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