海産の板鰓類は尿素を体内に蓄積することで体液の浸透圧を海水レベルに上昇させ、海という高浸透圧環境でも脱水から免れるという、ユニークな体液調節を行う。そのため、腎臓では濾過されてしまう尿素のほとんどを再吸収して、高い尿素濃度を維持している。本研究では、腎臓の細尿管上に存在する輸送体分子の網羅的解析から水やオスモライトの動きを明らかにし、尿素再吸収モデルを提唱することを目的とした。まず尿素輸送体分子をクローニングにより同定し、ほとんど腎臓でのみ発現していることを示した。特異的抗体を作成して腎臓での局在を調べたところ、腎細尿管の最終分節である集合細管のみに存在することがわかった。Na+/K+-ATPaseや水チャネルなどの分子群は集合細管には存在せず、第3ループに存在する。すなわち、第3ループでは原尿を濃縮すると同時に、間質に低尿素環境をつくり、これが集合細管での尿素再吸収の原動力となるのだと考えている。この原動力を利用して、対向流交換系により集合細管からきわめて高い効率で尿素を再吸収する、というモデルを提唱するに至った。一方で、このような腎機能を調節するホルモンについても研究を進めた。下垂体神経葉ホルモンとナトリウム利尿ペプチドに注目し、構造を決定するとともに、異なる浸透圧環境での合成・分泌動態の変化を、mRNA量の変化や血液中のホルモン濃度の変化を指標に調べた。神経葉ホルモンとしては新規ペプチドであるファジトシンを含む3種類のペプチドを同定し、特にバソトシンが高浸透圧環境への適応にとって重要なことを示した。一方、ナトリウム利尿ペプチドは環境浸透圧の上昇直後に血中濃度が上昇することから、腎臓や直腸腺での塩分の排出の調節に関わることが示唆された。
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