雄のコオロギ(Gryllus bimaculatus)成体は、他の多くの動物と同様に、同種雌個体に対しては求愛行動を発現し、他の雄個体に対しては攻撃行動を発現する。2匹を同じ容器に入れることによって、これらの行動を誘起させることが可能である。加えて、比較的長時間続き、他の行動と区別することができるので、観察も容易である。さらに脳の構造が比較的単純である。これらの利点から、雄コオロギをモデルとして用いて、次の3点を解明した。 1.触角を切除してから1週間後の雄では、sexual orientationがheterosexualからhomosexualあるいはbisexualに変化していることを発見した。さらに、この雄では脳セロトニンレベルが低下していることと、その低下は脳のcentral bodyで顕著であることを明らかにした。そこで、触角切除によってcentral bodyにおけるセロトニンレベルが低下した結果、sexual orientationが変化するという仮説を立てた。 2.変態直前の雄幼虫のcentral bodyにおけるセロトニンニューロンの数が雄成虫と比較して少ない傾向を示した。 3.変態してから1週間後に雄は雌に対する求愛行動を発現開始するが、これ以前では雌に対して攻撃行動を発現することを明らかにした。この現象は、雄コオロギの雌に対する行動は性成熟過程において攻撃から求愛へ変化することを示唆する。
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