コオロギの側輸卵管に酵素処理を施すと長径100ミクロン、短径5ミクロンの横紋構造を持つ単一筋細胞が得られる。この単一筋細胞は、正常リンガー液中で周期的なリズム収縮を示す。この単一筋細胞にホールセルパッチクランプ法を適用すると周期的収縮に同期した一過性の過分極電位(過分極性膜電位振動)が発生していることを見出した。平成14年度はこの過分極性膜電位振動の発現に細胞外からのCa2+流入が必須であること、その経路には2種のCa透過型チャネル(電位依存性L型Caチャネル及びCa透過性伸展活性化チャネル)が関与していることを突き止めた。平成15年度はこれらの知見を基に、膜の過分極を担うイオンチャネルは細胞内Caの増加により活性化されるCa活性化カリウムチャネルであるとの仮説に基ずき、チャネルの同定を進めた。その結果、BKチャネル及びIKチャネルの存在を突き止めた。 BKチャネルの同定 (1)コンダクタンスは外液140mMの場合、120pS、外液10mMの場合、51pSであった。 (2)チャネルの平衡電位は外液K濃度の変化によりネルンスト式に従い変化した。 (3)細胞内Caの濃度上昇により開確率が増加した。 (4)細胞外からのイベリオトキシン、TEA、Baによりチャネル活性は抑制された。 Ikチャネルの同定 (1)コンダクタンスは外液K濃度140mMの場合、50pSであった。 (2)チャネルの平衡電位は外液K濃度の変化によりネルンスト式に従い変化した。 (3)膜の脱分極により開確率が増加した。 (4)細胞外からのクロトリマゾール、シャリブドトキシン、TEA、Baは効果なかったが細胞内からのTEAに作用によりチャネル活性は抑制された。 以上の結果から、膜の過分極を発生させるイオンチャネルはBKチャネルとIKチャネルであることを示すことができた。さらにこれらのチャネルを活性化させるCaイオンは細胞外由来のものだけでなく、Ca誘発性Ca遊離機構を介した細胞内Ca貯蔵部位からの遊離Caも関与していることが電気生理学的に明らかにされた。
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