ショウジョウバエ視細胞における小胞の輸送は、脊椎動物とは異なる「新規輸送システム」によって行われている可能性が高い。その分子機構を明らかにするために、異なった輸送経路や過程にある輸送小胞をショウジョウバエ視細胞から単離し、その蛋白質組成を比較することにより、新規輸送システムで機能する分子を同定することを試みた。視物質を含む小胞については、昨年度にその方法を確立したので、今年度は色素顆粒の精製を行った。ショウジョウバエ網膜のホモゲネートを繰り返し密度勾配遠心にかけ、色素顆粒を核やミトコンドリア、ラブドメアなどから分離することに成功した。次に精製した色素顆粒に含まれる蛋白質を2次元電気泳動によって分離し、得られた各蛋白質スポットを蛋白質分解酵素で処理して質量分析を行った。ペプチドの質量情報をもとにゲノムのデータベースを検索し、6種の蛋白質を同定した。現在、これら蛋白質の機能を調べるため、そのcDNAをクローニングして発現蛋白質による抗体の作成を行うとともに、その発現を、RNAi法を用いて阻害するためのベクターの作成を行っている。輸送小胞の生化学的な解析をより容易に行うための新しい実験系の開発も試みている。ある種の甲殻類はショウジョウバエよりも眼が大きく、また、概日リズムによりラブドームの合成・分解を繰り返すため、大量に輸送小胞を蓄積する時間帯がある。当初、視細胞の形態変化がはっきりと示されているイソガニを用いる予定であったが、より入手の容易なクルマエビに転換し、その基本的な構造と、網膜の昼夜変化について観察を行った。その結果、特定の光条件下で多量の多胞体の生成が見られ、色素顆粒と合わせて、エンドサイトーシス系の小胞輸送の研究材料として期待できる。
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