研究概要 |
チョウの季節型は、蛹初期に脳から分泌される夏型ホルモン(SMPH)によって決定され、蛹初期の温度によって再調節されることが知られている。キタテハやアゲハチョウでは、季節型の主たる決定要因が夏型ホルモンであり、蛹初期の低温はその発現決定後の微調節に大きな役割を果たしていると。 本研究計画を実施する中で、ベニシジミやサカハチチョウでは、夏型ホルモンの他に蛹初期の低温も重要な要因であること、特にベニシジミでは季節型(翅の紋様)が蛹の体色と密接な関連のもとに光周決定されることが明らかとなった。また、シロチョウ科のキチョウに存在する季節型(夏型と秋型)の発現も脳から分泌される夏型ホルモンによって調節されている可能性があることが判明した(加藤義臣氏と共同研究)。それとは別に、ジャノメチョウ科のクロコノマにも翅のパターンが明瞭に異なる季節型(夏型と秋型)が存在しており、その発現が幼虫期の光周条件によって成虫卵巣休眠と共に決定されることが明確となった。 また、カイコガ成虫の10,000個の脳・食道下神経節複合体粗抽出液から、ゲルろ過とそれに続く4回の逆相高速液体クロマトグラフィーによって、夏型ホルモン活性物質(脳神経ペプチド)を単離し、そのN-末端から10個のアミノ酸の配列を決定することに成功した。この活性ペブチドとN-末端が同じ配列をもつ既知の活性物質はWEB検索で見つかっていない。 来年度にもう一度、夏型ホルモンの活性ペプチドをカイコガ成虫の脳・食道下神経節から精製し、N-末端のアミノ酸配列を確認する予定である。
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