甲殻類(ロブスター)がヒトを威嚇したり、他の個体に遭遇したりすると、血中に正体不明の物質を放出していることをこれまでの研究で発見した。この正体不明のストレス物質を特定するための研究を行ってきた。最初にこの物質の存在に気づいた時の分析装置は電気化学検出法HPLCであった。この装置に考えられる候補物質を次々に投入し、発見当初と同じ物質を探し当てるという方法は、海岸で砂粒のなかから宝物を探すようなものであったが、案外運良く一つの物質が候補にあがった。これまでの心臓生理学研究の経験から裏打ちされた絞込みが成功し、プロクトリンというペンタペプチドが怪しいことが分かってきた。しかし、今回の研究から、プロクトリンそのものがこのHPLCで検出されないことがわかった。ところが、威嚇時サンプル分析で出現する正体不明物質と同じピークがプロクトリン投入でも出現するのである。そこで、分析手段をまったく別の手法にかえてみた。飛行時間計測法質量分析装置(トフマス、東京女子医大霜田助教授と共同)で問題の正体不明ストレス物質を含むと思われるサンプルを分析した。ところが、そのペプチドの質量に相当する分子量のピークが得られなかった。この原因は一つは、装置動作上必要なマトリクスという物質を、多くの候補から選択する際のミスマッチが考えられ、まだプロクトリンがあるともないとも断定できる状態ではない。また、別の装置(日本大学動物資源学部村田助教授のステロイド分析HPLC)でも、候補としてふさわいホルモンであるステロイドらしい物質は発見されなかった。すなわちプロクトリンを否定する結果も得られなかった。トフマスの利用に加え、従来のHPLCで、逆相カラムと投入サンプルとの相互作用で何かが溶出されるのではないかという問題が具体的な課題となってきた。
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