雄イモリ肛門腺より単離・同定されたペプチド性雌誘引物質の中枢での生理的作用を解明することを目的として研究を行った。まず、1)受容部位を確認し、その部位にDiIを注入し、受容細胞より中枢へ向かう神経をトレースすることにより上記誘引物質に対する反応経路(投射経路)を探った。これまでの研究で、鼻腔内に綿球をつめる、あるいは嗅神経束を切断するという嗅覚阻害処理を雌に行うと雌誘引フェロモンに対する雌の嗜好性が消失することから、嗅上皮に受容体が存在すると推定されている。そこで、雌誘引物質の受容器官である雌嗅上皮の各部位で雌誘引物質を作用させた結果、鼻腔外側部において最大の電位変化(嗅電図応答)が生じることを確認した。この部位にDiIを注入したところ、副嗅球への投射が確認された。このことから副嗅球がイモリフェロモンの第一次中枢である可能性が示唆された。そこで次に、2)副嗅球およびその周辺部における神経細胞において雌誘引物質に対する応答性がみられることを電気生理学的手法(細胞外および細胞内記録法)により確かめた。現在、さらにその応答性と応答部位における応答細胞の分布状態や形態などに注目し、詳細な解析を進めることにより、副嗅球でフェロモン情報がどのように処理されているかを明らかにしようとしているところである。また、ホルモン(性ホルモン、プロラクチン)が生殖行動の発現に重要な働きをすることが知られているが、本研究で新たに内因性アルギニンバソトシン(脳下垂体後葉ホルモン)が求愛行動発現に関与することをアルギニンバソトシンアンタゴニストを用いて明らかにした。またアルギニンバソトシンは脳に作用して雄求愛行動を引き起こすことを脳室内投与法によりつきとめた。アルギニンバソトシンはまた、同時に腹腺からの雌誘引物質の分泌にも関与することを確かめた。
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