研究概要 |
弱電気魚モルミルスは相手の放電(EOD)による電場の混信を避けるために混信回避行動を行う。放電周波数を自由に変える得るパルス型放電種では,エコー行動,あるいは相手のEODに対し一定間隔を保って放電するPLRを行う。最も極端な場合は,9-16msの間隔をあけて追従放電を行い,逆平行姿勢(Anti-parallel display)をとる。数回の行動で群内順位が決定する。これらの行動の行動発現までの神経機構はわかっていない。本研究の最終目標は,この行動の発現までの過程を,(1)3種類の電気受容器での感覚情報抽出と一次感覚葉での並列情報処理,(2)上位中枢での並列情報処理と統合,(3)EOD周波数と行動を決定する発電系へのフィードバックについて神経解剖学的および神経生理学的に明らかにすることである。 電気感覚系では,相手魚のEODタイミング,強度,位置は3種類の電気受容器で検出され,それぞれ別の神経回路網で情報抽出される。一次感覚葉では,随伴放電(EOCD)や上位中枢からの下行性入力により制御される。今年度の研究成果では,以下の2点が明らかになった。(1)in vivo標本での電位感受性色素を用いた光学的測定実験から,モルミロマスト受容器からの入力を受ける一次感覚中枢(脳幹・電気感覚葉)では,二次感覚ニューロンに情報伝達されるときONおよびOFFタイプのニューロン群に伝達が起こり,それぞれのニューロン群が交互に並んでいることが示された。またグリシン受容体は上行性の情報伝達において,興奮の時間的制御を行っていることが示唆された。(2)電気刺激を与えEODを測定するin vivo行動実験からは,EODから50-100msの潜時で刺激が与えられたとき,特徴的な行動(放電停止,追従放電)が引き起こされ,繰り返しにより潜時は短くなった。このことは,学習過程の存在も示唆した。
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