研究概要 |
弱電気魚モルミルスは相手の放電(EOD)による電場の混信を避けるために混信回避行動を行う。パルス型放電種では,エコー行動ともいう。これは相手のEODに対し一定間隔を保って放電するもので,極端な場合は,9-16msの間隔をあけて追従放電を行い,逆平行姿勢(Anti-parallel display)をとる。これらの行動発現までの神経機構はわかっていない。本研究の最終目標は,この行動の発現までの過程を,(1)電気受容器での感覚情報処理と並列情報処理,(2)上位中枢での情報処理と統合,(3)発電系へのフィードバックについて、行動学的、神経解剖学的および神経生理学的に明らかにすることである。 本年度は、(1)行動学的方法を用いて、エコー行動を誘発するまでの神経回路の解析、および(2)電気感覚葉における可塑的情報処理過程について、ELLスライス標本を用いて単一ニューロンでの解析を行った。成果は、(1)電気的交信に相当するbroad電気刺激では、刺激受容からEOD発生まで平均11msの潜時で、周波数同調が観察された。感覚入力から運動出力まで11msというのは、感覚器と運動出力の反射時間としては、驚異的に短い。GABA受容体の増強剤存在下では同調は更に鋭くなることから、抑制性ニューロンによって制御されるEOD同調神経回路が予測された。しかしこれは反射時間には影響しない。(2)ELLニューロンのパッチ記録を行い、カリウムチャネルの局在性について調べた。MGニューロン(抑制性介在ニューロン)ではdelayed K channelは、樹状突起よりも細胞体に多く、可塑性惹起に重要なbroad spikeを形成していることが確認された。感覚入力はGABA性ニューロンで入力調節されることが示された。これらのことから、感覚器からEOD誘発までの神経回路網には随伴放電(EOCD)による促通的調節と抑制的調節の関与が示唆された。
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