研究概要 |
弱電気魚モルミルスは、放電(EOD)による電場の混信を避けるために混信回避行動を行う。相手のEODに対し一定間隔を保って放電し、エコー行動と呼ばれる。これらの行動発現までの神経機構はわかっていない。本研究の最終目標は,1.このエコー行動の神経生理学的特徴を数値化する。2.行動発現までの過程を,(1)電気受容器と一次感覚葉での感覚情報処理と並列情報処理,(2)上位中枢での情報処理と統合,(3)発電系へのフィードバックについて、行動学的、神経解剖学的および神経生理学的に明らかにする。3.さらに脳幹におけるEODや呼吸のリズム形成能とGABAニューロン関与の相同性を探索し、脳幹に於ける感覚-運動統合のモデル化を図ることである。 本研究では、1.行動学的方法によるエコー行動数値化と神経回路の推定、および2-(1)電気感覚葉における可塑的情報処理過程について、単一ニューロンでの解析を主に行った。成果は、1.電気的交信に相当する広範囲電気刺激では、刺激受容からEOD発生まで平均11msの潜時で、周波数同調が観察された。感覚器と運動出力の反射時間としては、驚異的に短い。GABA受容体の下では鋭く同調することから、抑制性ニューロンによって制御されるEOD同調神経回路が予測された。しかしこれは反射時間には関与しない。2-(1)ELLニューロンのパッチ記録を行い、カリウムチャネルは、抑制性介在ニューロンの可塑性惹起に重要なbroad spikeを形成していることが確認された。また感覚入力はGABA性ニューロンで可塑的に入力調節されることが示された。 今後は本効果を基に、in vivoとin vitroでの比較実験を行い、11msの反射時間を可能とするエコー行動の神経回路を同定し、また神経機構について解明したい。さらにペースメーカーニューロンの存在しない系でのリズム活動の発生調節機構についても明らかにしたい。
|