研究概要 |
カヤモノリ科の15種について,ミトコンドリアゲノムのcox3,cox3とatp6の間の領域のDNA塩基配列の決定をPCRダイレクト・シーケンス法により行った。材料とした種は,ムラチドリ,ボウガタムラチドリ,フクロノリ,ウスカワフクロノリ,モサクダフクロ,カゴメノリ,カヤモドキ,カヤモノリ,ヒラカヤモ,ウスカヤモ,ハバノリ,セイヨウハバノリ,ホソバセイヨウハバノリ,ワタモ,ホソクビワタモである。cox3では,約550塩基対を決定し,アラインメントを行い,進化速度の解析,系統樹の作製,系統樹の評価を行った。cox3の進化速度については,褐藻類の系統解析で広く一般に用いられている葉緑体ゲノムのrbcL遺伝子と比較してかなり速いことが明らかになった。cox3遺伝子のコドンの3番目の塩基置換は,カヤモノリ科内で飽和の状態であった。従って,系統解析ではcox3のアミノ酸配列を利用して行ったが,今回決定したcox3の領域だけでは情報量が少なく,系統樹の解像度は低いものであった。cox3とatp6の間の領域には,100bpほどのスペーサー領域と700bpほどのORFがみられた。このORFは,シオミドロ科のピラエラやホンダワラ科の種にはみられないのに対し,カヤモノリ科の調べた種ではすべてにみられたため,カヤモノリ科の単系統性を示す証拠の一つとなる可能性がある。カヤモノリについては日本の異なる地域で採集した複数のサンプルについてcox3遺伝子の塩基配列を決定した。その結果,日本のカヤモノリにはcox3遺伝子において大きく3つのグループがみとめられ,最大10%ほどの変異があることがわかった。この結果は,カヤモノリが複数の同胞種を含む可能性があることを示している。このようにcox3遺伝子は種内の類縁関係の解析において大変有用であることが明らかになった。
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