研究概要 |
本研究では,これまで褐藻内の系統解析には利用されていなかったミトコンドリアコードのcox3をPCRで増幅するためのプライマーをシオミドロ目で作成した。また,このプライマーはイソガワラ目,コンブ目,ヒバマタ目など広く褐藻で使用でき,褐藻類のcox3の解析に大変有用なものであった。前年度の研究では,cox3の進化速度が大変速いことが明らかとなり,塩基置換がカヤモノリ科内でも飽和状態であると推測された。その結果を踏まえ,葉緑体ゲノムのrbcL, rbcS,核ゲノムのLSUrDNA,さらにcox3を結合した複合分子による系統解析を試みた。Cox3は,コドンの1番目と2番目の塩基だけを用いた。Cox3の効果を見るために,まず,cox3を除いたデータセット(13種,2152塩基)で系統樹を構築し,ブートストラップ値を出した。次にcox3を含めて系統解析を行い(13種,2555塩基),両者を比較した。その結果,両系統解析の間で,枝のトポロジーはほぼ同じで,ブートストラップ値も大差なかった。しかし,わずかにcox3を含めた方が高い傾向にあった。あまり差がなかったのは,全体の中でcox3のデータセットの割合が小さかったためと考えられる。より精度の高い解析のためには,さらにデータ量を増やす必要があると言える。カヤモノリのcox3塩基配列の種内変異については,cox3ハプロタイプと核リボソームのITS2領域のハプロタイプが常に決まった組み合わせで現れた。もし,異なるハプロタイプ間での交雑が起こっているなら,可能な組み合わせが現れるはずであるがそうではなかった。異なるハプロタイプが同所的に見られるところでも交雑によりできるハプロタイプの組み合わせがみられず,このことは,cox3ハプロタイプで認識できる個体群間において交雑が起こっていないことを示している。
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