研究概要 |
南西諸島は新生代に中国大陸・台湾と日本列島との間を繋ぐ陸橋の形成と分断を繰り返した.そのために生物の移動経路として日本列島の植物相形成に重要な役割を果たしたと共に,隔離によって島嶼間で遺伝的分化が生じ,島嶼固有種や種内変異を多く形成している場所である.本研究ではサクラソウ科オカトラノオ属(Lysimachia)ハマボッス(L.mauritaiana)を対象にして,DNAと染色体に生じている変異を解析するとともに生殖的隔離の状態をはかり,両データを対比させながら植物の島嶼間種分化の解析を進めた。ハマボッスについては台湾から種子島に至る琉球列島の各島ならびに九州、本州、伊豆諸島から生きた株の採集を行い、葉緑体DNA上の遺伝子間領域約5000bpを解析して島嶼問の分化を調べた。その結果、台湾からトカラ列島悪石島まで分布するハプロタイプ、沖縄本島からトカラ列島悪石島まで分布するハプロタイプ、トカラ列島中之島から種子島を経て本州太平洋側に至る地域に分布するハプロタイプの3種類のハプロタイプに分化していた。染色体は南琉球と中琉球に分布するハプロタイブのものが2n=18,北琉球から本州にかけて分布するハプロタイプのものが2n=20で、葉緑体DNAのタイプと染色体数が対応していた。核型としては2n=18の南・中琉球タイプに2n=6m+2sm+10tなどの10タイプが、2n=20の北琉球タイプから2n=4m+6sm+10tなどの9タイプが認識された。さらに奄美大島と徳之島で集団内部における葉緑体DNAハプロタイプと核型の比較解析を行ったところ、隣接個体間でハプロタイプや核型が異なっていることが判った。交配実験では南琉球タイプ-中琉球タイプ間で稔性が若干落ちるものの結実が確認されたが、南琉球タイプ-北琉球タイプ間、中琉球タイプ間-北琉球タイプ間では結実しなかった。従って、本研究で確認されたハマボッスの地域変異は生殖的分化に至っていることが確認された。結実が行われない要因について、花粉管伸長の観察で追跡しようとしたが、柱頭基部に溶射励起光を反射する構造があり、観察に至らなかった。今後にこの部位の観察を可能に出来るように手法の改善に努める予定である。
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