研究概要 |
群体性のイシサンゴでは、遺伝的に等しい破片向士は瘉合するが、単体性のイシサンゴでは、クローン同士を接触させても瘉合しない。単体性と群体性の差異は生態学的に重要であるにも関わらず、その差異をもたらす機構についてはほとんど解明されていない。本研究では、イシサンゴにおける単体性と群体性の差異を明らかにすることを目的とした。 単体性サンゴであるクサビライシが、再生過程の初期には群体性を示すものの数ヶ月後に単体性の性質を獲得すること、単体性を確立する際にはポリプの分離または統合によって単体ポリプが形成されることを示した。同個体由来の再生ポリプ同士を接触させた場合、接触部で組織が癒合するが、傘(anthocyathus)形成後のポリプでは、傘部は接触させても癒合せず、傘の形成と個体性の発現が同時期に起こることが示唆された。今後、単体性の獲得に伴ってどのような遺伝子が発現するかを解析することにより、単体性と群体性の差異の遺伝的基盤を解明できると考えられる。 ハナヤサイサンゴのプラヌラ幼生由来の群体は枝を形成するが、成群体の枝より再生させた群体は、9ヶ月間の観察期間中に枝を形成しなかった。このことは、枝形成能力が発生過程に伴って変化することを示しており、今回の知見は、群体サンゴにおける成長型制御機構の分子的解析に道を開くものである。 ハナヤサイサンゴのクローン・非クローンの識別をするために、これまで行ってきた組織非適合性反応を利用した遺伝的差異の検出に加え、マイクロサテライト解析を試みた。その結果、少なくともPV5,PV7の2遺伝子座に多型が見られることが分かったが、親子間、兄弟プラヌラ間で遺伝的差異を検出するには至らなかった。より多型性の高いマイクロサテライトを探索することが今後の課題である。
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