研究概要 |
今年度は研究の2年目となるため,琉球列島の固有植物を中心に研究材料の検討と収集を行うと共に,前年度に収集した材料をもとにヤエヤマスミレ(スミレ科)とコケタンポポ(キク科)の分子系統地理学的な研究を行った.その成果は現在解析中で,次年度に論文として公表する予定である.昨年度に購入したラン科植物のマイクロフィッシュを用いて,ラン科植物相の分類の再検討を行った.遺存固有種としてシュスラン属とオニノヤガラ属の数種を選び,次年度に解析が可能であるか検討を進める.昨年度に,琉球列島固有のミヤコジシバリ(キク科)は雑種起源であること,その起源は複数回あることを分子系統学的な手法で証明した(雑誌文献1)が,今年度はミヤコジシバリの著しい種内倍数性は琉球列島の地史と深い関わりがあり,遺存固有種的な性質を示すことを細胞地理学的に示した(雑誌文献4).前年度に,アカネ科のサツマイナモリ属とボチョウジ属の染色体数の算定をした際に,琉球列島中部固有のアマミイナモリは近縁なサツマイナモリの倍数体起源であることを明らかにした(雑誌文献2)が,今年度の分子系統学的な解析により,アマミイナモリは日本および台湾産のサツマイナモリよりも系統的に古い時代に分化した遺存固有種であることが判った.琉球列島中部に固有のヒメイヨカズラ(ガガイモ科)の外部形態と分子系統樹を解析し,この種はこれまで考えられていたイケマ属ではなく,オオカモメヅル属に属し,遺存固有種的な性質を多く持つ種であることを示した(雑誌文献4).琉球列島では唯一大陸棚上に位置し,遺存固有種と思われる多数の植物種を産する尖閣諸島の魚釣島は,増殖した野生化ヤギの食害により植物相と植生が大きく破壊されており,緊急な保全対策が必要であることを論じた(雑誌文献3).日本では琉球列島中部に限って産し,遺存種的な分布パターンを示すツルカタヒバとミタニクラマゴケ(イワヒバ科)の形態的変異と分布域を調査し,両者は同一種であることを明らかにした(雑誌文献6).琉球列島と小笠原諸島に産する絶滅の恐れのある植物40種(遺存固有種と見なされる種を含む)の形態・分布・学術的価値について論じた(図書1).
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