研究概要 |
日本の固有種であるイワボタンの仲間Chrysosplenium macrostemon s. l.は本州の太平洋側、四国、九州に広く分布し、5つの変種、イワボタンvar. macrostemon、ニッコウネコノメvar. shiobarense、ヨゴレネコノメvar. atrandrum、キシュウネコノメvar. callicitrapa、サツマネコノメvar. viridescensが知られている。しかし、これら種内分類群の実態は十分には把握されていない。本研究は、多くの集団を対象としたこれら形態学的・細胞学的解析、さらにDNAによる分子系統学的解析を通じてイワボタンの仲間の分類学的再検討を行うことを目的としたものである。 まず、イワボタンの仲間の単系統性を検証するため、イワボタン列Ser, Macrostemon内の5種43集団(イワボタンの仲間23集団、イワネコノメ6集団、ホクリクネコノメ5集団、ヒダボタン4集団、ボタンネコノメソウ5集団)について核DNAの5.8SrDNAを含んだITS領域の分子系統学的解析を行った結果、イワボタンの仲間は単系統群であり、イワネコノメソウがその姉妹群にあたることが示唆された。次に、イワネコノメソウを外群としてイワボタンの仲間51集団について核DNAのETS領域塩基配列による系統解析を行った。その結果、27種類のETS塩基配列タイプが認識され、それらの系統解析ではまず熊本県五木村周辺の集団が分岐し、その他の集団は一つのクレードを形成するという新知見が得られた。後者のクレード内では集団間のサブクレードはいくつか認められるものの、全体として多分岐となり明確な系統関係把握には至らなかった。このクレード内に認められたETS塩基配列タイプの一つ(タイプ4)は、広く九州、四国西部、紀伊半島、丹沢山系など22集団に共通に認められたが、これらの集団の花形態、種子表面構造などは大変多様であり、遺伝的分化と形態的分化は必ずしも対応していないことが示唆された。また、染色体数はこれまでに調べられた43集団ですべて2n=22の2倍体であり、イワボタンの仲間では倍数性は認められないと考えられる。今後ITS領域も含めた分子系統学的解析をイワボタン内で進め系統樹の解像度を高めるとともに、花・種子などの形態学的特徴をより多くの集団で進める必要がある。
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