平成15年度は、一部の材料を除き4課題の材料採集をほぼ終了し、一部の分子系統樹の作成に取りかかった。4課題は、広義のユリ科ネギ属の1)ヤマラッキョウ群、2)ギョウジャニンニク群とユリ属の3)スカシユリとエゾスカシユリ、4)オニユリとコオニユリであり、それぞれが倍数体種分化、四倍体内の温帯林床下の形態の収斂分化、地理的亜種分化、種間雑種分化の問題として研究を行なっている。 1)については、ヤクシマイトラッキョウ、イトラッキョウ、ナンゴクヤマラッキョウ、タマムラサキ、ヤマラッキョウ、キイイトラッキョウ、サツマラッキョウなどのITS領域をシークエンスし、現在分子系統樹を構築中である。 2)の北半球の亜寒帯林あるいは冷温帯林床に分布するギョウジャニンニク群として、ヨーロッパ産のAllium victoriaris ssp.victoriarisとA.ursinum、ユーラシア産のA.victoriaris ssp.platyphyllum、北米産のA.tricoccomを材料として選び、未入手のA.victoriaris ssp.victoriarisを除き1)の材料とともにITS領域をシークエンスし、現在分子系統樹を構築中である。 3)のスカシユリとエゾスカシユリに、ヨーロッパに自生するLilium bulbiferumを加え系統解析した結果、エゾスカシユリからスカシユリとL.bulbiferumが分化した可能性が出てきた。 4)については二倍体オニユリと三倍体オニユリおよびコオニユリの系統関係が、コオニユリのゲノムの一部が三倍体オニユリに侵入しているらしいことが示唆される結果を得た。 3)と4)については、ユリ属植物全体の分子系統樹を構築する過程の中で分析を試みるために、先ず最初に平成15年9月26日に開催された日本植物学会第67回大会(札幌)にて「ユリ属植物の生活史の進化」と言うタイトルで一部を発表した。
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