研究概要 |
matK遺伝子とrDNAのITS領域の塩基配列から作製された分子系統樹から、ユリ属近縁属間の生活史の分化と系統分化を考察した。ユリ連(Lilieae)を構成する数属は、Notholirion属からCardiocrinum属が分かれ、さらにFritillaria属が、その後Nomocharis属とLilium属に分かれることが判明した。また、Nomocharis属はLilium属の中に含まれる。それとともに、Notholirion属とCardiocrinum属は一回繁殖型で生殖年齢に達するまでに8-10の年月を必要とすることが判明した。 亜種スカシユリLilium mculatum Thumb.と亜種エゾスカシユリL.mculatum subsp.dauricum(Ker-Gawl.)Haraは、地理的亜種として認識されている。しかし、次の諸点において区別できるので別種とみなした。1)外部形態:茎下部に前者は開出毛をもつが後者には無い。地上発芽型に対し、地下発芽型である。後者は蕾時期に外花被先端から蜜を分泌する。2)生活史:前者は地中地上型(HETP)の段階をもつが、後者はその段階を欠く。3)染色体の核型:仁染色体の1つにおける仁狭窄が、前者ではほとんど出現しないが、後者では高い頻度で出現する(野田 1987)。4)塩基配列:多くの差異がある。分化の方向は、エゾスカシユリから南ヨーロッパに分布するL.bulbiferum,日本本土に自生するスカシユリである。 オニユリL.lancifoliumには2Xと3Xの種内倍数性があり,3Xオニユリの成立過程にはコオニユリL.leichtlinii var.maximowicziiのゲノムが関連していることが示唆された。 平たい葉をもつ第三紀周北極要素のネギ類(Allium)は、系統関係とは無関係に形態分化した事が示唆された。
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