平成16年7月に西表島および石垣に分布するマングロブ林を含む亜熱帯林においてコウヤクタケ科および類縁菌科の発生子実体について、その状態、基質の樹種、発生部位、腐朽様式など、可能な限りの生態的性質を記録するとともに乾燥標本を作製した。本調査において75点の子実体標本を得ることができ、これらのうち55点については多胞子分離、子実体組織分離あるいは基質材から分離菌株を得ることができた。分離菌株は純粋培養後、液体窒素凍結保存を行った。また、分離培養を行った45点の子実体標本から直接DNAを得るために各子実体組織のエタノール浸漬標本を作製した。分離菌株および子実体についてDNA解析を行い、平成14年度および15年度収集子実体、菌株を含めて、現在までに120子実体(菌株)について18rDNAおよびITS領域の解析を終了した。これらの解析結果および形態学的研究成果に基づき、Asterostroma属の1新種および日本末報告種2種を見出した。さらに、本年度実施した現地調査および従来の調査で得られた未同定のコウヤクタケ類標本の分類学的同定を行うために、イエテボリ大学植物研究所標本館(スウェーデン)において標本調査を行った結果、少なくともHypochnicium、Sistotrema、Treshisporaに所属する5種を新種とするのが妥当であると判断した。また、西表島マングローブ林に設定した調査区の1回の調査において、調査区内マングローブ生立木および枯死木腐朽部から得られた担子菌類分離株のDNA解析を行った結果、調査時期を異にする3回の調査において調査区内に出現する担子菌類子実体の形態学的研究によって認められた種以外に、少なくとも未知種として3種以上の分布が認められた。この結果は、材上生担子菌類相の多様性解析に腐朽部より得られた分離菌株のDNA解析の併用が有用であることを示唆する。
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