旧世界の亜熱帯から温帯地域に広く分布するツリフネソウ属植物には、中国西南部・ヒマラヤ地域で特に多様化した一グループがあり、これを「中国西南部・ヒマラヤ地域種群」として分析している。本研究で対象とするのは、この「中国西南部・ヒマラヤ地域種群」の中でも特に多様性が高く、種の認識が困難と考えられるImpatiens drepanophoraとその近縁種からなる種群(「drepanophora群」と称する)である。平成14年度は、この群について以下の解析を進めた。 1 野外の自生地で収集した資料を中心に、成熟花を双眼実体顕微鏡を用いて解剖し、花の各器官の形態を観察し、図化した。観察した花部各器官の形態を解析し、変異性を調べた。また、種間の相違点を明らかにするために、各種の花部器官について比較を行ない、異同を明らかにした。 2 1と同様に、これまでに得られた試料や標本にもとづき、花序の形態について解析を行なった。 3 「中国西南部・ヒマラヤ地域種群」の分類体系を確立するにあたって、「中国西南部・ヒマラヤ地域種群」のツリフネソウ属全体の中における系統関係を明らかにしておくために、rbcLとtrnL-trnF間の遺伝子領域を解析し、「中国西南部・ヒマラヤ地域種群」には、1)同地域でのみ多様化したグループと、2)同地域だけでなく他地域へ広がった系統樹上はまったく別の姉妹群に分類される2群からなることが明らかになった。得られた系統樹を支持する形質を探るため、染色体数、ならびに花形態、および花序型区分との相違を考察し、その結果をまとめ専門雑誌に発表した。
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