本年度は主としてマイクロCTによる三次元形状データの取得活動に従事した。米国リベン遺跡より出土した人骨標本のうち、個体歯列と断定できる子供の標本から、永久歯標本総数700以上を抽出した。それらを実体顕微鏡下で観察し、未咬耗もしくはそれに殉ずる上顎第1切歯、上下顎犬歯、上下顎小臼歯、上下顎大臼歯、合計250本ほどを選定し、クリーニングを行った。これらの標本の歯冠部について、マイクロCT装置を用いて連続CT断面画像を取得した。CT撮影は1断面を28ミクロンの厚さとし、512×512の16ビット画像として再構築し、21断面づつのボリューム撮影により、1標本数100断面からなる歯冠部全体のCTデータを各標本について効率よく取得した。断面画像のピクセルサイズとスライスピッチのキャリブレーションは0.1%程度の精度で実施し、高精度のボリュームデータを取得した。データ解析としては、次年度の準備として、CTあるいはレーザー三次元計測装置に基づいたヒトと類人猿大臼歯の既存3次元サーフェスデータの解析を進めた。先ずは、ヒト大臼歯の3次元データを用いたエナメル質厚さの可視化と数量化方法の解釈に関する考察を詰め、さらには歯冠部位による厚さパターンを検討した。次に類人猿とヒトの大臼歯において、平均エナメル厚さなどの3次元総合指標、歯冠咬頭部の平均エナメル質厚さ、歯冠側壁での最大最短厚さなどを比較し、各指標間の関係と厚さ値の動向を解析した。断面データにおける厚さ指標の比較検討により、咬頭方向厚さの変異は特に大きく、歯冠側壁の最大最短厚さがより安定していることが示唆された。その上で第1・第2大臼歯混合データにおける歯冠側壁の最大最短厚さを調べたところ、少数サンプルにおいて、ヒトでは1.25から1.99mm、オランウータンでは0.97から1.71mm間の変異を示すことが明らかになった。
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