研究概要 |
霊長類臼歯の形態を記載した研究は多数報告されているが,肉眼的な観察を主体とした記載や歯冠の最大径を計測したものが多く,歯冠細部構造の形態を扱ったものは比較的少ない。特にオナガザル科の大臼歯を対象とした研究はみあたらない。本研究ではマカク属大臼歯の形態的な特徴とその個体変異を記載することを目的とした。材料は京都大学霊長類研究所および日本モンキーセンターに保管されているニホンザルの頭蓋骨より採取した石膏模型である。対象歯は上・下顎第3、第4乳臼歯及び第1大臼歯である。本年度はオス34個体の計測および分析を行ない,臼歯間相互の形態的な違い,特に乳臼歯と大臼歯の違いを抽出した。デジタルノギスにより,歯冠全体の大きさ(歯冠近遠神経,頬舌径)および歯冠細部構造の計測を行った。上顎では4咬頭の近遠心径,頬舌径を,下顎ではトリゴニッドとタロニッドの近遠心径,頬舌径を計測した。これらの計測値から歯冠細部構造の面積(近遠心径×頬舌径)を算出し,歯冠全体に占める割合を歯種間で比較した。 歯冠の大きさはほとんどの計測項目で第3乳臼歯が最小で,ついで第4乳臼歯,第1大臼歯がの順で,各臼歯間の差は危険率1%以下で有意であった。ただし,下顎第3乳臼歯と第4乳臼歯の近遠心径はほぼ同じ大きさであった。歯冠全体の形を比較すると,上顎では第1大臼歯の頬舌径が相対的に大きく,下顎では第3乳臼歯の頬舌径が相対的に小さいことがわかった。歯冠細部構造の相対的な大きさを比較すると,上顎では乳臼歯のプロトコーンが小さく,下顎では第3乳臼歯のタロニッドが小さかった。以上の結果から,乳歯の上顎では舌側部,下顎では遠心部が大臼歯ほどには発達していないことが明らかとなった。 来年度以降に行なう予定となっている三次元計測の準備として,ベクトル計測を試行した。その結果,ランドマークとして,咬頭頂と溝の交点を採用することとした。
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