研究概要 |
旧世界ザルの大臼歯形態を記載した研究は多数報告されているが,肉眼的な形質の出現頻度や歯冠最大径の起債が中心で,大きさの要素を除去した歯冠の形を数量的に扱ったものはほとんどみられない。本研究はニホンザル大臼歯間における咬合面形態の違いを記載することを目的とした。今年度は咬合面の二次元的形態を分析した。材料は京都大学霊長類研究所に保管されているニホンザル(オス)頭蓋骨の上・下顎第1〜3大臼歯である。歯軸とカメラの光軸が一致した咬合面観の写真をデジタルカメラで撮影した。この写真上で中心窩を原点,中心溝をX軸,頬・舌側溝をY軸とする座標系におけるランドマークの座標を計測した。ランドマークは中心窩,咬頭頂,頬・舌側溝と咬合縁の交点,近・遠心小窩,近心および遠心頬・舌側の最大豊隆点,頬・舌側溝の歯冠外形への延長点の17点である。これらの座標値をRohlf(2003)のホームページからダウンロードしたソフトウェアを使用して解析した(http://life.bio.sunysb.edu/morph/)。プロクルステス法に基づく最小二乗法により各大臼歯の大きさ要素を除外した各ランドマークの平均座標値を算出した後,薄板スプライン法により第一大臼歯と遠心位の大臼歯の形を比較した。結果は座標格子の歪として表示され,同時に曲げモーメントの値を得る。その結果,歯冠内部(咬頭頂と窩・溝)は歯冠外形(最大豊隆点など)に比べて大臼歯間の差異が小さかった。曲げモーメントは,後者は前者の3〜10倍であった。すなわち,発生の早い歯冠内部のランドマークは大臼歯間の差異が小さく,発生の遅い歯冠外形のランドマークでは大臼歯間の差異が大きいといえよう。上顎遠心位の大臼歯では近心部が相対的に大きく,遠心部は縮小していた。下顎では近遠心的に引き伸ばされ,頬舌的に圧平されていた。
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