研究概要 |
ヒトと大型類人猿の繁殖戦略の様相を明らかにするため、ヒトと大型類人猿3種の精巣について、組織学的な分析を行い、また精子相対産生量を示す指標によって比較した。 ヒト(N=7)、ゴリラ(10)、チンパンジー(11)、オランウータン(7)から、オートプシーまたはバイオプシーにより精巣標本を採取した。これを光学顕微鏡で観察することにより、各種の精上皮や間質、精子形成サイクルの様相について比較した。また、全精巣の精細管総延長と精細管あたりの精子の密度を計算し、これを乗じることによって精子形成指数を求めた。 その結果、ヒト(N=6/7),チンパンジー(10/11)、オランウータン(7/7)では、ほとんどの個体で精子が形成されていたが、ゴリラでは少なかった(4/10)。ヒトと大型類人猿との間に統計的な差は認められなかった。ヒトの間質は比較的少ない。間細胞は、ゴリラでは非常に密度が高く、チンパンジーでは密度が低いが、ヒトとオランウータンは、その中間的な様相を示した。精細管の直径と、精巣実質中に精細管が占める割合は、4種のあいだに有意差が認められなかった。ヒトの全精巣中の精細管総延長は、ゴリラとの間に差はないが、オランウータン、チンパンジーより有意に短かった。ヒトの精細管断面に見られる成熟精子細胞(精上皮サイクルのステージIとIIに見られる成熟精子細胞)の数は、ゴリラとオランウータンとの間に差は認められなかったが、チンパンジーより有意に少なかった。精子形成指数の値は、4種相互に有意に異なっていた。日常的な精子産生は、ゴリラはヒトの4分の1,オランウータンはヒトの4倍、チンパンジーはヒトの60倍であると推定された。
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