歯の形態については、東南アジア人には北方アジア人の要素がやや強いグループ、オーストラリア先住民やメラネシア人に近いグループ、両者の中間的特徴をもつグループが存在することが明らかになった。この結果はTurnerが東南アジア人を一つにひっくるめて、Sundadont型歯列というレッテルを貼っている単純な見方とは異なるものである。北方アジア人の要素が比較的強い集団は、インドシナ半島を中心とする東南アジアの大陸部に見受けられ、オーストラロ・メラネシア系集団と類似する歯をもつグループのほとんどは、新石器時代以前のホアビニアン文化を担った集団であった。このことから東南アジアには初期の段階には、オーストラリア先住民やメラネシア人と共通の祖先から分かれた集団が居住していたことが一層明白になった。従ってTurnerの主張する連続説は支持できず、混血説が有力となった。また、本来のSundadontと称すべき歯列をもつ集団は、後期旧石器時代のスンダランドに起源をもつオーストラロ・メラネシア系集団と現オーストラリア先住民などに限られ、現代東南アジア人と縄文人の歯の形態は、後に移住してきたsinodont型歯列をもつ北方アジア人と、本来のSundadont型歯列をもつ新石器時代以前のスンダランド起源の東南アジア人との混血により生じた両者の中間型歯列にすぎないという見方が妥当となった。後期更新世の人骨化石の研究としては、タイ南部のMoh Khiew洞窟から出土した約25000年前の人骨について、頭骨と歯の計測値の統計学的分析をおこなった。その結果、オーストラリアの後期旧石器時代のCoobool Creek遺跡出土の人骨と酷似することが明らかになった。研究目的に記した「混血説」の土台となる「先史東南アジア人がオーストロメラネシア系集団であった」とする仮説を支持する新たな重要な証拠が得られたことになる。
|