本研究においては、半導体結合量子井戸中の電子スピンをqubitとする量子計算の可能性を検討している。これを実現するためには材料中でのスピン緩和(の遅いこと)が重要な要素となり、この点に関しては幾つかの報告がなされている。しかしスピン緩和が構造中のどの部分で起きているのかについては未だに明確な答が得られていない。我々は(1)光励起直後のエネルギー緩和時(2)バルク部分(3)量子井戸中 以上3つの部分で起きるスピン緩和を判別できる構造を持ったInGaAs/GaAs系量子井戸サンプルを用い測定を行っている。予備的な結果ではあるが、光生成直後にかなりスピン緩和が起きていること、バルク部分を輸送中のスピン緩和は小さいことが示されている。(CLEO/Europe-EQEC2003にて発表予定。) また、これまでサンプルは研究協力関係にある他大学からの提供を受けてきたが、我々のグループ内の結晶成長装置が立ち上がりつつある。ここで成長したサンプルを用いて、温度・ドープ量・光励起強度・電界強度とスピン緩和との関係をより詳細に測定し、スピン緩和を抑制できる材料・構造を検討する。 量子計算における制御-Not Gateを実現するためには、異なる層にある2次元電子ガス間の交換相互作用の大きさが重要なポイントとなる。グリーン関数を使った多体電子系の取り扱いに基づき、相互作用する電子間の交換相互作用の大きさをHartree-Fock近似(出来れば乱雑位相近似)を使って評価する。現在モデルを構成し、計算の準備中である。
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