研究概要 |
本研究では、III-V族希薄磁性半導体のSi基板上へのヘテロエピタキシャル成長技術の確立と、そのヘテロエピタキシャル層の電気的・磁気的特性の評価を行い、半導体ヘテロ接合デバイスの新たな機能性を探査することである。 そこで本年度は、まずSi基板上へのGaAsバッファ層の成長技術の確立を図った。通常Si基板表面の自然酸化膜を除去するためには900℃程度の高温フラッシイングを行うが、本実験室の分子線エピタキシー装置(MBE装置)では、650℃の基板温度が最高温度であることから、多段階成長法を開発した。Si基板上に良好なGaAsバッファ層成長では、低温成長(〜250℃)と高温成長(〜580℃)を繰り返すことにより結晶性が改善されることが明らかになった。これは、低温での3次元核成長による欠陥層拡大の抑制と、高温成長による表面マイグレーションによる平坦化に起因すると考えられる。特に、III-V族希薄磁性半導体は低温による成長条件が必要であることから、GaAsバッファ層の表面状態はIII-V族希薄磁性半導体の成長に重要な条件を与える。このような多段階成長法によるGaAsバッファ層の確立により、その上部に連続してIII-V族希薄磁性半導体である(Ga, Mn)Asを基板温度を200℃の低温にすることにより、エピタキシャル成長させることに成功した。本試料の(Ga_<1-X>Mn_X)Asは、XRD測定からMn組成としてX=0.063であることを確認した。さらに、磁気輸送特性の測定では異常ホール効果を観測し、その測定結果からアロットプロットにより強磁性転移温度(Tc)を推定すると約80Kであることが分かった。以上の結果から、(Ga, Mn)As-on-Siヘテロエピタキシャル構造を実現できることを確認することができた。 つぎに、本試料を分割し低温熱処理(<300℃)を施した。その結果、強磁性転移温度(Tc)の上昇を確認し250℃、30分の熱処理ではTcが115Kまで増大することが明らかになり、GaAs基板上に成長した(Ga, Mn)Asで報告されている最高Tc=115Kに相当する結果を得ることができた。これは、Si基板によるひずみ効果が関与している可能性があり興味ある結果と考えている。
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