本研究によって次のことが明らかになった。 1.X線回折測定を行った結果、Si:YbEr薄膜は、30〜40nmの粒径を持つナノ構造(nc-Si:YbEr)を示していることが明らかになった。 2.nc-Si:Yb薄膜からは、0.980、1.036、1.091μmにおいてYb^<3+>イオンの内殻遷移発光を観測した。 3.Yb^<3+>イオンの0.980μm発光の時間分解発光スペクトルを測定した結果、Yb^<3+>イオン発光は励起後約300nsで立ち上がることを見出した。 4.nc-Si:Yb(Yb添加量1wt%)薄膜、nc-Si:Er(Er添加量1wt%)薄膜、nc-Si:YbEr(Yb添加量1wt%およびEr添加量1wt%)薄膜の3種類の試料に関して、赤外発光スペクトルを測定した。Yb^<3+>イオンの励起準位(^2F_<5/2>)は、Er^<3+>イオンの第2励起準位(^4I_<11/2>)よりも5meVだけ、高いエネルギー位置にあることが明らかになった。この結果は、母材であるSi中に生成された電子・正孔対の消滅エネルギーが、Yb^<3+>イオンの励起準位(^2F_<5/2>)を介することにより、母材料→Yb^<3+>イオン(^2F_<5/2>)→Er^<3+>イオン(^4I_<11/2>)→Er^<3+>イオン(^4I_<13/2>)→1.54μm発光→Er^<3+>イオン(^4I_<15/2>)への効率良いエネルギー移動を示している。実際に^4I_<13/2>→^4I_<15/2>遷移として現れる1.54μm帯のEr^<3+>イオンの発光強度を、nc-Si:Er薄膜とnc-Si:YbEr薄膜とで比較した結果、YbをErに共添加することで2.5倍の増強(センシタイゼイション)を得た。 5.nc-Si:Yb(0.2wt%)Er(0.2wt%)薄膜では、センシタイゼイション効果は1.1倍、およびnc-Si:Yb(3wt%)Er(3wt%)薄膜では1.6倍であった。Er^<3+>の1.54μm発光をセンシタイズさせるための最適Yb添加量は、Yb(1wt%、1.4×10^<19>cm^<-3>)であることを明らかにした。 6.Er^<3+>の1.54μm発光の励起スペクトル(PLE)測定を、Yb^<3+>の励起準位(^2F_<5/2>)とEr^<3+>の第2励起準位(^4I_<11/2>)を含む波長領域で行った。nc-Si:Yb(1wt%)Er(1wt%)薄膜での吸収帯が最も大きいことは、前述したEr^<3+>イオンの発光強度のセンシタイゼイションの効果を支持している。 本研究により、Er添加nc-Si薄膜において観測されるEr^<3+>イオンの1.54μm発光(^4I_<13/2>→^4I_<15/2>遷移)を、Yb^<3+>イオンを共添加することで、センシタイズすることが明らかになった。
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