超伝導体のエレクトロニクス応用において、超伝導量子干渉素子(Superconducting quantum interface device : SQUID)や、単一磁束量子(Single Flux Quantum : SFQ)回路素子に関しては、磁束量子という超伝導体の量子効果が最大限に利用されているのに対し、マイクロ波素子の応用に関しては、超伝導体のもつ低表面抵抗の性質のみを利用しているにすぎないという本研究の背景から、超伝導体の量子効果であるボルテックスをマイクロ波素子へ応用することを考えた。そして、磁界に応答するマイクロ波素子である静磁波素子と超伝導体を組み合わせ酸化物高温超伝導体中のボルテックスと強磁性体中の静磁波を相互作用させ、その結果おこる効果について2つの予測を立てた。1つめは強磁性体中を伝搬する静磁波の磁気的エネルギーが酸化物高温超伝導体中のボルテックスを挙動させるために消費されエネルギーの吸収が生じること、もう一つは静磁波の駆動力によりボルテックスが移動し超伝導体中を流れる電流に抵抗が生じることである。その予測を実験的に確認し、さらにこの相互作用を応用するために、ボルテックス-静磁波相互作用を用いた超伝導静磁波素子を考案した。この素子特性を測定した結果、酸化物高温超伝導体中のボルテックスと強磁性体中を伝搬する静磁波の間での相互作用を世界ではじめて実験的に確認できた。この相互作用は今後さらに検討を進めればスイッチング素子への応用が可能である。 次に、この超伝導静磁波素子の機能を高めるにあたり必要不可欠な、酸化物高温超伝導体と、静磁波伝搬用強磁性体の直接積層構造を実現するために、YIGに代わる材料としてPr_<1-x>Ca_xMnO_3(PCMO)を提案した。まず、この材料を薄膜化し、電気的、磁気的特性の測定を行うことにより超伝導静磁波素子材料としての有用性について示した。続いて、実際にYBCO/PCMO直接積層構造による超伝導静磁波モード帯域阻止フィルタを作製し、PCMO中での静磁波励振を始めて確認することにより、PCMOが静磁波素子応用に有用であるということを示している。以上のように、本論文は極めて独創的で、これまで報告例のない超伝導体中のボルテックスと強磁性体中を伝搬する静磁波との間の相互作用を用いた超伝導静磁波素子について行われたもので、超伝導体の新しい応用分野を開拓するものである。
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