本研究プロジェクトではSiO_2中およびSi/SiO_2界面における原子レベルの素過程を第一原理計算、マクロシミュレーション、そしてSIMSによる詳細な実験という3つのアプローチによって明らかにすることを目指し、シリコン/シリコン酸化膜における界面反応がシリコン酸化膜中のシリコン原子の自己拡散、さらに不純物の拡散に与える影響を第一原理計算並びに連立拡散方程式によって検討した。その結果以下の注目すべき結果が得られた。 (1)第一原理計算でシリコン酸化膜中のボロン不純物の拡散過程を詳細に検討した。その結果、ボロン原子は酸素の存在下ではシリコン基板からシリコン酸化膜中に拡散し、さらにBO複合体を形成することが示された。BO複合体中のBは+1の荷電状態では周囲の3個の酸素と3配位の状態をとりエネルギー的に極めて安定である。BO複合体はシリコン酸化膜中を頻繁にボンドの組み替えを起こしながら拡散する。この過程に対応する拡散バリアはおよそ2.6eV程度で、実験で観測されるシリコン酸化膜中のボロンの拡散バリアと一致することがわかった。本結果はシリコン酸化膜中の拡散に有益な示唆を与える。BO複合体はBがシリコン酸化膜中のSiの置換サイトに存在する場合にはB不純物とSiOの複合体と見ることができる。このことはSiOが生じやすいと考えられる界面付近ではボロンの拡散が促進されることを示唆している。 (2)シリコン/シリコン酸化膜界面における分解反応によるSiOの形成を考慮した連立拡散方程式により、シリコン酸化膜中のシリコン原子の自己拡散を検討した。その結果、SiOの濃度が高いと考えられる界面付近は他の場所に比べてシリコン自己拡散が極めて大きくなることが示された。理論的に予言された本結果は、詳細なSIMS測定によっても確認された。
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