成果は、(1)今日のテクノロジーを支える物質群に対する現象の解明・予測、(2)明日のテクノロジーを支えるナノ物質での新物性・新機能の予測、の二つに大別できる。(1)の範疇では以下の点が、量子論的に解明された。(1)半導体テクノロジーの根幹を支えているSiO_2絶縁膜中のドーパント不純物の拡散機構の解明を行った。ボロンは+1価、中性、-1価の荷電状態をとり、拡散の経路、活性化エネルギーはその荷電状態に敏感なのである。(2)SiO_2のフェムト秒レーザー照射によるSiナノ結晶創出の可能性を見出した。融点以下でも2種類の構成元素の拡散係数の違いにより、ボンドの組換えが生じるのである。(3)InGaN系のバンドギャップを計算し、InNのバンドギャップは1eV以下であることが判明した。窒化物半導体で赤外から紫外までの波長領域をカバーする可能性を示した。(4)良質なGaN薄膜成長のための基板としてZrB_2の可能性を吟味し、Zr面上に窒素を吸着して成長したGaN薄膜の良質性を見出した。また(2)の範疇では、以下の新機能が量子論的計算により予測された。(1)水素で被覆されたSi(111)面上の水素原子を制御良く取り除くと、電子状態の制御によりSi表面上にナノ磁石が構成されること、(2)ジグザグ端をもつ炭素ナノチューブでは、その径に依存してバラエティに富んだ磁気的性質が出現すること、(3)2つの半導体炭素ナノチューブを入れ子にした二重ナノチューブでは、チューブの曲率の比により、半導体が金属化すること、(4)ナノチューブ、フラレン系では物質内部に空間が存在し、その空間の大小の制御により、フェルミ準位近傍の電子状態を制御できること。また、原子ナノワイヤーのコンダクタンス計算手法が新たに開発され、SiとAl原子ワイヤーのコンダクタンスが調べられた。原子ワイヤー伸展により、ワイヤーを構成する原子間隔が増加すると、予想に反して、コンダクタンスが増加することが理論的に見出された。
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