1.清浄表面を持つ多層カーボンナノチューブ(MWNT)の電界放出パターンは、チューブ先端に導入されている6個の五員環を反映しており、また隣接する五員環の境界部には1本ないし複数の筋状の輝線も観察されることを以前に報告したが、これらの輝線の成因を実験的に調べるために、印加電圧の変化に伴う輝線の本数および間隔の変化を測定した。その結果、輝線の数は印加電圧の増加に伴って増加すること、また輝線の間隔は印加電圧の1/2乗に反比例して変化することが判った。 2.ヤングの干渉縞の計算機シミュレーション法を確立した。具体的には、カーボンナノチューブ尖端に導入されている五員環を正方形開口スリットで近似して、2個の正方開口スリットにより作られるフラウンホウファー回折像すなわちヤングの干渉縞の強度式を、フレネル・キルヒホッフの回折積分の式から理論的に導出した。その式を用いてヤングの干渉縞の開口スリット間距離依存性、加速電圧依存性を計算機シミュレーションで調べたところ、上記1.の実験結果をよく説明できた。この結果は、輝線が2個の五員環から放出された電子線の干渉の結果生ずる縞であることを強く示唆している。 3.MWNT先端の清浄な1個の五員環から放出された電子ビームの電流電圧特性と放射角電流密度をプローブホールタイプの電界放出顕微鏡法を用いて測定した。その結果、放射角電流密度の測定値と1個の五員環の幾何学的寸法から推定した換算輝度は、53nAの放出電流値において、およそ5.6×10^9A/(m^2srV)に達した。これはJonge等により報告されている1本のMWNTに対する値より一桁あるいはそれ以上高い値である。
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