1.清浄表面を持つ多層カーボンナノチューブ(MWNT)の電界放出パターンは、チューブ先端に導入されている6個の五員環を反映したパターンを示し、その1個の五員環かち放出された電子ビームの電流電圧特性と放射角電流密度をプローブホールタイプの電界放出顕微鏡法を用いて測定した。放射角電流密度は単位立体角当りのビーム電流で定義され、ビームの収束の程度(angular confinement)を表すと共に、電子光学的輝度の目安にもなる重要な量である。試料には、ヘアピンフィラメントに接着したMWNTの束を用いた。異なる4つの試料について、印加電圧-1、500Vで放射角電流密度はいずれも約15μA/srであった。この値は、タングステン針先端に接着された一本のMWNTについて、印加電圧-319Vで報告されている値と同程度である。両者の印加電圧の違いは、試料の形状因子の違いによるものと思われる。また、換算輝度の推定値は、従来の高輝度電子源のそれよりも、1桁〜2桁高い値であった。 2.カーボンチューブ先端の1個の五員環から放出された電子ビームの軌道計算を、名城大学理工学部電気電子工学科下山教授のグループが開発したプログラムで行うべく、同グループとの検討を進め、現在も進行中である。平成16年度中には計算結果が出る予定である。 3.電子ビームの干渉性を利用したミクロな電磁場の直接観察法を開発した。すでに、2個の電子線バイプリズムを用いる直接観察法が開発されているが、実験が極めて困難であった。本方法は、1個の電子線バイプリズムで簡単に観察が可能で、極めて有用な方法であることが判明した。
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