本年度は、昨年度の円形開口回折光のような特殊な照明光を用いた物体再生法とは異なるアプローチで研究を行った。すなわち、物体からのフレネル回折光の観測面上でスリット開口を走査させながら開口のfar-field面で強度分布を観測し物体を再生する新しい方法について、1次元および2次元物体に対する理論解析と計算機シミュレーションを行った。その結果、1次元物体とフレネル近似による2次位相項とのコンボリューションの広がりが、スリット開口のフーリエ変換(すなわちsinc関数)の広がりの1/2より小さい場合、sinc関数をガウス関数と見なすことができて、フレネル面上での位相分布を従来の位相計算法を用いて回復し、その逆フーリエ変換で物体を再生できることが確認できた。この方法をさらに2次元に拡張する方法を検討した結果、直交する2方向に対してスリット開口を走査させ、得られたデータからそれぞれ計算した位相分布を合成することで2次元位相も回復できることを理論的に導いた。そこで、本年度の科研費の設備備品費で購入した高性能コンピュータを用いて、2次元のシミュレーションをいろいろな条件で行い、この方法の有効性を確認した。この方法は、光に限らず、X線や電子線などの波動を用いた計測にも有効であり、従来フレネル回折領域で利用されている強度輸送方程式による位相回復法に比べて、波が伝搬するとき現れる渦位相の再生を行うことができる点に特徴がある。この結果は、来年度行われる国際光学会の会議で発表する予定である。 来年度は、走査スリット開口と観測面までの距離のfar-field条件を、さらに拡張してフレネル近似ができる距離まで近づける方法を検討し、実用可能な方法に改良することを行う予定である。
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