研究概要 |
・半導体ナノ構造を右回りの円偏光で励起すると下向き(上向き)のスピンを持った電子が励起され、その電子が正孔と再結合するとき、右回り(左回り)の円偏光を発光することが知られている。この円偏光とスピンの関係に着目すると、量子構造における電子の振る舞いを調べることができる。今回、励起子の量子閉じ込めとスピン寿命時間の関係を明らかにすることを目的として、井戸厚の異なる半導体量子井戸構造について偏光分解フォトルミネッセンス測定を行い、励起子の局在化に伴いスピン緩和が抑制される効果を見出した。実権にはGaAS/AlGaAs系の井戸層なる量子井戸(井戸層厚:4,6,8,10,15nm)およびGaAsのバルクを使用した。励起光源としてはHeNeレーザからの連続光(波長633nm)を1/4波長板で円偏光に変換したものをしようした。さらに量子井戸構造からのフォトルミネッセンスは弾性光学素子と検光子用いることにより、右回りの円偏光成分と左周りの成分に分離し、それら成分の差を評価した。その結果、原子層ステップによる層厚ゆらぎの効果が顕著となる層厚4nmの量子井戸では、井戸幅がより厚い量子井戸やバルクと比較してスピン寿命時間が極端に長くなることを明らかにした。この結果は、励起子が量子井戸の層厚が平均より厚く従って閉じ込めエネルギーが低い部分に捕獲され局在化するとスピン緩和が抑制されることを示唆しており、量子閉じ込めと緩和メカニズムの関係の解明に有益な知見を与えるものと考えられる。 ・磁気光学効果は、磁場の印加で引き起こされた電子・正孔系の状態変化が光吸収・発光等の光学特性に反映される効果であり,半導体ナノ構造における量子閉じ込めや電子スピンの状態を調べる上で極めて有用な情報を与える。井戸層の異なる量子井戸(井戸層厚:4,6,8,10,15,nm)およびGaAsのバルクについて高磁場下(≦10T)での励起子発光スペクトルの測定を行い、励起子発光ピークや発光スペクトルの磁場依存性など、励起子スピン効果の解明につながる基本特性を明らかにした。
|