研究概要 |
昨年度の研究に引き続き,多自由度のブラウニアンモーターを計算機シミュレーションによって解析した。具体的には,(1)2次元の運動の自由度を持ったブラウニアンモーターが多数結合した系を計算機シミュレーションによって調べた。この系は実際の生物学的実験の状況に適応できるモデルで,その結果実験結果を定性的に再現できることがわかった。すなわち,実験ではアクチンフィラメントをミオシンを並べたスライドガラスの上におきATPを加えると,適当な条件でフィラメントは運動を始める。そのときフィラメントの長さを変えて速度を計ると,長さが短い間は速度の方向が定まらず時間ごとに煩雑に運動方向を変えるが,十分長いフィラメントはほぼ一定の方向に持続的に進んでいく。またスライドガラスにおくミオシンの密度を変化させたとき,密度が小さいうちは密度の増加とともにフィラメントの速度は増加していき,ある程度密度が大きくなるとミオシンの密度をあげても速度は変化しなくなり飽和してしまうという結果が知られている。我々のモデルはこれらの点を定性的に説明することができた。また実際に運動しているフィラメントの形も実験で観察された状況に近いものが得られた。 (2)このようなラチェットモデルの機構を用いて種類の違う粒子の混合物を分離することを試みた。すなわち底がブラウニアンモーターのポテンシャルのような空間的に非対称なギザギザの形をした容器内に粒子の混合物を入れその容器内を重力の元で動き廻れるように容器を鉛直方向に振動させる。こうすることによって,性質の違う2種類の粒子はうまく実験条件を設定することにより互いに反対の方向に動きだし混合物を分離できることを計算機シュミレーションを用いて示すことができた。 粒子分離に関して得られた成果は,平成15年9月ポーランドのザコパネで行われた第16回スモルコフスキー記念統計物理学国際シンポジウムにおいて発表し,そのプロシーディングに論文が発表される予定である。また8月にはPhysica A Vol.325に結合したブラウニアンモーターに関する論文が掲載された。
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