研究概要 |
筋強直症(ミオトニー)は,随意運動等をきっかけとして筋が強直する疾患であるが,強直の持続時間は,数分から30分程度のかなり長時間の場合と,1秒以下の一瞬の場合がある。従来行ってきた筋肉のHodgkin-Huxley方程式(以下でHHM式とする)を用いた研究では,エネルギー等の枯渇がなければ強直が永久に持続するタイプのみを対象として,生理的知見を定性的によく説明する結果を得てきた。 本研究の目的は,強直の持続時間が1秒以下の場合について,その発生機序を示すことである。 これまでの研究の結果から,長時間続く筋の強直すなわち筋細胞膜での連続発火は,HHM式での周期解に対応していると考えられる。一瞬の強直に対応するようなHHM式の解は,おそらく,膜の静止状態に対応する安定平衡点をいったん離れて再びその平衡点に戻る長いトランジェントな解であろうと予想された。そこで,HHM式におけるイオンチャネルの特性値をパラメータとした分岐現象,解空間の構造を調べた。 まず,従来のHHM式において,NaチャネルおよびClチャネルの性質が変化した場合の分岐現象を調べ,Clチャネルの影響により強直が収束する過程が複素固有値の影響であることをみた。次に,生理的知見に基づき,遅いNaチャネル入れたHHM式を構築した。このモデルでは,神経でみられるような,数回の発火が生じる解は見出されなかった。また,神経生理学者らとの討論および文献から,筋肉においても神経においてと同様に,Ca依存性チャネルおよび細胞内の陽イオンの蓄積が重要な役割を果たしているとの示唆が得られた。Ca依存性Naチャネルを入れたHHM式を構築し,同様の検討を行ったが,やはり数回発火の解は見出されていない。これらのイオンチャネルの寄与は,今後さらに検討を続ける必要がある。また,陽イオンの蓄積を考慮したモデルの構築も,今後の課題である。
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