動的条件下におけるスタビライザー部の接触状態を考察するために、まずは一般生活において最も一般的動作と考えられる歩行動作を対象として三次元動作測定を行い、その結果ならびに逆動力学手法、非線形最適化法を用いて人工膝関節動作の動的数値シミュレーションを行った。さらにスタビライザー部の最適化を目的として、大腿骨コンポーネントスタビライザーの設置位置を移動させ、人工膝関節接触状態の変化を調査し、大腿骨スタビライザーの最適設置位置の検討を行った。その結果、動的条件においてスタビライザーはその設置目的である膝動作の安定化、つまり膝屈曲が大きくなった時の大腿骨の後方移動(ロール・バック・ムーブメント)に大きく寄与していること、スタビライザー位置のわずかな移動により動作上大きな問題になる接触状態となること、現在の設置位置はこれらの問題が生じない状態になっていること等がわかった。また最適設計として、生体膝関節動作との同一性、なめらかな関節接触点移動、膝関節接触面の摩耗、スタビライザー接触部の摩耗の4つのパラメータを用いて大腿骨スタビライザー設置位置の評価を行ったところ、現在の設置位置よりもより最適な場所があること、またパラメータにより最適位置は異なる結果となったため、これらの総合的な判断が必要であることが判明した。さらにこれらの手法を応用して、手術時における人工膝関節コンポーネント自体の設置誤差による関節動作への影響を検討したところ、設置精度により関節動作は大きな影響を受け、人工関節の長寿命化のためにも正確な位置決めの必要性、さらにはこれらの誤差をもある程度は吸収できるような人工関節コンポーネント検討の必要性が示唆された。歩行動作以外の日常動作についても測定・検討を行ったが、現有の動作解析装置に不具合が生じ、信憑性のあるデータが取れなかったため、今後引き続き検討することとした。
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