研究概要 |
1.シリコン原子の堆積初期におけるエピタキシャル層構築素過程を分子動力学シミュレーションにより詳細に調べた。原子間相互作用の計算にはStillinger-Weberポテンシャルを用いた。シリコン単結晶直方体基板上へのシリコン原子の堆積を考え、結晶成長面内には周期境界条件を課して、基板底面から2原子層を固定した。1MD(Molecular Dynamics)ステップを1fsとして、基板温度が指定された温度に達するまで基板の平衡化を行った。その後、基板上方で水平方向にはランダムに選択された位置から、基板方向に0.2eVのエネルギーに対応した初速度をシリコン原子に与えて基板上に堆積させた。基板の固定層の上の10原子層を速度スケーリング層として設定温度を保持しつつ、堆積原子と基板原子の緩和計算を行い、その後、また新たに原子を堆積させて同様な計算過程を繰り返し、堆積原子の総数が320個になるまでシミュレーションを行った。基板温度600K以上で堆積原子はエピタキシャル層を形成するが、エピタキシャル層の構築素過程を、特定した数個の原子の軌跡を追跡することにより調べた。その結果、エピタキシャル成長のある時点でいったん形成された表面上のダイマー列では、その後に堆積してくる原子とダイマーを構成している原子との交換が起こり、はじきだされた原子は次の原子層のダイマー列を形成するというような複数原子層にまたがるダイマー列の再構成が繰り返し起こり、1原子層ごとに互いに直交する<110>方向のダイマー列の形成が起こることが分かった。分子線エピタキシー法によるエピタキシャル成長の実験ではダイマー列方向が1原子層ごとに交互に直交する2次元島が堆積する現象が観察されているが、本シミュレーションの結果は堆積原子の密度が大きい場合のダイマー列形成過程に対するナノスケールの描像を提供する。 2.単層カーボンナノチューブのねじり特性を分子動力学シミュレーションによって調べた。原子間相互作用の計算にはTersoff-Brennerポテンシャルを用いた。まず、軸方向に周期境界条件を設定したモデルで平衡化を行った後に、部分的に有限長のカーボンナノチューブを切り出した。この切り出したカーボンナノチューブの一端を固定して、他端に軸まわりの強制変位を段階的に与えて、チューブ全体を指定した角度までねじった。その後、強制変位を与えた一端を解放して変形回復過程を観察した。また、微小なねじり角に対してねじり振動のシミュレーションを行い、ねじり振動の周期からねじり剛性を、さらにはヤング率を求めた。設定温度を100K,300K,500Kとし、また、カイラル指数(10,10),(13,6),(17,0)のそれぞれのモデルに対してシミュレーションを行った。その結果、(1)カーボンナノチューブは広い弾性域を持つこと、(2)ねじり剛性は温度依存性とカイラル角依存性を示すがその依存性は微弱であること、(3)ねじり剛性から見積もったヤング率は1.1TPaとなり、他の研究者の第一原理計算の結果や実験結果とほぼ一致することが分かった。
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