本研究は、表面応力を一定のものとせず表面のひずみに伴い変化するものとして定式化した新しい境界条件を用いて応力解析システムを開発し、これからの技術展開に必要な解析手法を研究開発するもので、理論と実験から成る。 研究の初年度は、これまでの研究で作成してきた境界要素法応力解析システムに表面応力の新しい境界条件を導入すための基礎研究を行った。 1.分子動力学法を用いて表面応力・表面エネルギと表面ひずみの関係を調べた。表面応力は、表面エネルギと結晶面上のひずみに対する表面エネルギの変化(表面剛性:Surface Rigidityと呼ばれている)を加えたものである。この表面剛性が表面応力の異方性を生じる原因である。そこで、はじめに固体表面の表面エネルギを分子動力学法にEAM(Embedded Atomic Method)ポテンシャルを用いて求めた。今回はFeとCrおよびWの表面エネルギーと表面剛性を併せて求めた。さらに、表面剛性率のひずみ依存性についても求めた。その結果、表面応力は材料固有の値として求めることが出来た。さらに、表面剛性率についても、ひずみゼロにおける値を求めることができた。一方、有限ひずみに対する表面剛性率は極めて小さくなった。この点については、今後検討する。 2.表面応力を考慮した2物体間の凝着に関する応力解析を行った。凝着を起こすと、その周囲の部分の表面エネルギより凝着した部分の表面エネルギが低下する。そのために低下した領域の縁にプリズマティック転位ループが発生する。これが凝着力の一部を形成する。さらに、2物体を引き離すに要する力と変形の関係を調べた。その結果、表面応力を考慮したJRK理論に相当する理論を新たに構築することができた。境界要素法にこれらの境界条件を導入することを次年度行う予定である。 3.表面に異原子が付着した場合に生じる原子表面の変形について理論および分子動力学の結果を比較し、よい一致が得られた。 4.凝着過程の物体変形の様子を観察・計測するために、レーザー光源を含む光学干渉系を購入した。 5.次年度製作する予定の表面応力を駆動力とするセンサーの基礎データを収集するため、表面応力を考慮した異方性弾性体のカンチレバーの解析を分子動力学を用いて行っている。特に異なる材料がコーティングされ表面・裏面の表面応力が異なるカンチレバーの変形解析を行い、表面応力の差とカンチレバーのたわみの関係を調べている。
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