研究概要 |
(1)超微細粒鋼における表層部近傍の超細粒材(結晶粒径約2μm)および内部の通常組織(平均粒径約9μm)の平滑材の疲労試験を行い,疲労強度に及ぼす結晶粒径の影響を明らかにした.結晶粒径の小さな超細粒鋼の方が,疲労強度および静的機械強度ともに大きいものの,Hall-Petch関係より予測されるよりも低強度となる.これは,比較的結晶方位のそろったコロニーを形成することが原因であることを明らかにした. (2)超微細粒鋼では,単純な直線状のすべりの他に,粒界近傍に多くの交差すべりが観察された.EBSPによる方位解析を行い結晶学的な検討を行った結果,複雑な交差すべりはシュミット因子の最も大きな3種類のすべりに起因し,主すべり系が結晶粒界による拘束効果によって活動を停止すると,他のすべりが活性化されることによって交差すべりが多く生じる.超細粒鋼では,結晶粒界が多く存在するため,粒界による阻止効果が顕著に表れることが原因である. (3)結晶粒径の大きな材料では,単純な直線状のすべりのみが観察され,交差すべりは観察されなかった.き裂は直線的な単純すべりから発生した. (4)超微細粒鋼における微小疲労き裂の伝ぱ速度は,き裂先端が結晶粒界近傍に近づいたときに減少した.また,き裂が偏向した場合にも伝ぱ速度の低下が観察された.試験片表面における分岐き裂の数は粒径の小さな材料の方が多く,破面の粗さ誘起のき裂閉口に密接な関係があることがわかった.すなわち,結晶粒界による塑性変形の阻止効果,き裂偏向による抵抗,き裂の分岐が,疲労き裂伝ぱ挙動に大きな影響を与えることが明らかとなり,疲労き裂の発生および伝ぱのモデル化に際して有益な情報が得られた.
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