研究概要 |
(1)超細粒鋼は昇温過程での圧延によって形成される.電子線後方散乱解析よって圧延面には100面が優先配向することを明らかにした.一方,疲労き裂発生部分に注日すると,101面に優先配向した結晶が平均結晶寸法より2倍程度大きなコロニーが存在し,この部分より疲労き裂が発生した.マクロな100優先配向結晶とは異なる結晶において疲労き裂が発生することがわかった. (2)疲労き裂発生部近傍では,[111]方向に対する32個のすべり系が活動しており,最も大きなシュミット因子は{321}<111>および{132}<111>で最も大きく,0.412となった.これらのすべりは,試料表面において,荷重軸に対して70.5度となり,実験的に観察されるすべり線の角度と良く一致した.細粒鋼においては,32個の複数のすべり系による交差すべりが重要な役割を果たすことを明らかにした. (3)すべり変形後に発生する微小疲労き裂の伝ぱ挙動について,き裂伝ぱ方向およびき裂先端近傍のすべり変形の観点から微小疲労き裂の伝ぱ機構について検討した.疲労き裂近傍の特異応力場を考慮して,平滑材のシュミット因子に対応するすべり易さの影響を表わすすべり因子を提案した. (4)超細粒鋼では,き裂分岐によるき裂伝ぱ抵抗の増大が特徴であり,その分岐のメカニズムの解明は重要である.疲労き裂の分岐は,結晶粒内および結晶粒界いずれでも発生し,その頻度は同程度であった.分岐き裂は,疲労き裂先端でのすべり因子が最大となる方向に伝ぱすることがわかった.結晶粒内の分岐き裂では,複数のすべり系が存在し,これらが試料表面上で同一角度のすべり線上にある場合で,すべり方向が試料表面内である結晶粒で分岐が発生することがわかった.以上の結果は,高疲労強度発現のために極めて重要な基礎データであり,これをもとに疲労き裂の発生および伝ぱシミュレーションの開発へと発展させることが望まれる.
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