研究概要 |
本年度は高強度PLA繊維とPCL樹脂による複合材料からなる,組織再生用スカフォールドの開発とその生分解過程の検討を行った.スカフォールドにおいて最大の問題点は生きた細胞の均一で高密度な播種と成長に適した環境である.従来のコラーゲンゲルでは注射器による播種が可能だが,剛性に乏しく挿入した欠損部で,運動による荷重を支持できないため使用部位が限られていた.また多孔質のアパタイトは細胞を播種しにくく,材料は剛性が大きいが非生分解性であり,欠損部との界面接合部に応力が集中しやすいといった問題がある.本研究で開発したスカフォールドは剛性に優れており,人体の活動による荷重の支持が可能である.また速やかにスカフォールド内に体液を循環させて組織再生によりよい環境を整えることが出来るなど,多くの機能性を有している.従来では用いる材料と空孔率が決まれば,機械的特性はおのずと定まってしまう.ところが本スカフォールドでは繊維の織り構造とPCL樹脂の構造によって剛性を500倍以上増大させることが出来る.そしてこの値は繊維径や織ピッチあるいは膜厚を変える事で変化させることが可能であり,人体での適用部位を広げることが可能となる.PLA樹脂のIn-vivoとin-vitroでの生分解速度に大差が無いことから,体温の生理食塩中での生分解を行ったところ以下のような知見が得られた.生分解はPCL樹脂から始まり,それによる剛性の低下が認められた.しかし以後の剛性低下は小さくなった.これは繊維-樹脂界面のPCL樹脂の分解速度が低くなったものと思われる.また示差走査熱量計による熱分析の結果から,PLA繊維とPCL樹脂との界面での融解熱量が増大しており,界面で結晶化度の増大などが生じて界面の接着性が改善されていることが考えられる.
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