研究概要 |
一般に,三元系窒化物の(Ti,Al)Nは高硬質などの特性に加え,熱伝導性,高温安定性に優れているため,切削工具や金型などに寿命向上コーティング膜として用いられている.この種の薄膜は,NaCl型構造でAl最大固溶状態にある膜が最も優れた硬度と耐酸化性を与える可能性があるため,その最適成膜条件を調べることがとりわけ重要である. 最終年度は,過去2年間の研究で得られた知見を基に,電子ビーム蒸着とイオンビーム照射が同時に可能なイオンミキシング蒸着法により(Ti,Al)N薄膜を作製し,その耐食性や耐酸化性に及ぼす成膜温度の影響を中心に検討した.基板には(100)単結晶SiウエハおよびSUS304ステンレス鋼板を用い,基板温度を制御しない常温から773Kの範囲で変化させ,Al,Tiの蒸発原子数の比である蒸発比Al/Tiを1〜3,TiとAlの和と基板に照射するNイオン数の比である輸送比(Ti+Al)/Nを4に制御した.薄膜のピンホール欠陥面積率については臨界不働態化電流密度法により,耐酸化性については大気中で酸化試験を行い,オージェ電子分光法による深さ方向の組成分析によりそれぞれを評価した.その結果,以下のような結論が得られた.(1)作製した(Ti,Al)N薄膜は基板温度の上昇に伴って結晶粒が大きくなり,微細組織から柱状組織へ変化する様相を呈する.(2)基板温度を増加させるとウルツ型構造からNaCl型とウルツ鉱型の2相構造になり,やがてはNaCl型構造に変化する傾向を示す.(3)ヌープ硬度は2相構造の領域において比較的高い値を示し,ピンホール欠陥面積率に及ぼす基盤温度の影響は比較的少ない.(4)(Ti,Al)N薄膜はAlが選択的に酸化されて保護性のあるAl_2O_3を形成するため,TiN薄膜に比べて優れた耐酸化性を示す.
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