1.繰り込み群分子動力学(RGMI)の概念を明確にした。RGMDは繰り込み変換分子動力学(RMD)と逆RMD(IRMD)から構成される。RMDでは、所定の数の原子を一つの粒子として繰り込み、この粒子の集団として対象を表現する。これにより通常のMDで扱えないスケールの現象がシミュレート可能になる。IRMDでは、繰り込まれた粒子をもとの原子で再構成し、RMDの結果を拘束条件にしながらMDを実行する。これにより、RMDによって低下した現象既述の分解能を局部的に回復出来る。 2.RGNDにおけるマクロ現象創発のメカニズムを明らかにした。これは原子間相互作用にしたがって運動する原子の配列によりクラスター粒子間相互作用が変わり、逆にこのクラスター間相互作用にしたがって運動する粒子によって、もとの原子の運動が拘束されると言うミクロ・マクロ間の相互作用を通して行われる。 3.上記2におけるクラスター粒子間相互作用を、シミュレーションの進行に伴い逐次構成する手法を開発した。エネルギー保存則にもとずいて開発したこの方法は、2体原子間ポテンシャルのみでなく、任意の多体原子間ポテンシャルを基に粒子間相互作用を構成できる。このようにして構成されるポテンシャルは、材料の寸法効果や熱による軟化の現象を良く説明できる。 4.上記3で必要となる「クラスター粒子内の原子配置と、クラスター粒子自身の配置との関係を表すマトリクス」の構成法を提案し、これにもとずく数値計算ソフトウェアを開発した。さらにこの計算法の精度を数値実験により調べ、約10%程度の誤差に抑えられることを示した。 5.RMDにおけるクラスター粒子の運動には粘性を導入する必要があること、この粘性の源は物理的には局所熱平衡化現象にあり、数学的には標本定理の成立にあることを示した。次にこの局所熱平衡の条件(標本定理の成立)を基に粘性が結果的に導入されるような粒子運動の記述法を開発し、これにもとずく数値計算ソフトウェアも試作して、RGMDに組み込んだ。 6.上記5で試作したソフトウェアを用いて銅の引っ張り破壊シミュレーションを行った。モデルのサイズは繰り込みなしの原子スケールのもの、千原子を1粒子に繰り込んだもの(10倍サイズ)、10億原子を1粒子に繰り込んだもの(千倍サイズ)の3種類とした。引っ張り速度はゼロから100ステップ間に100m毎秒まで加速し、以後100m毎秒を保った。この場合、引っ張り速度の周波数分布は高周波側で急速に落ち込む。したがってサイズの小さい試料では静的引っ張りと類似になり、大きい試料では衝撃引っ張りになる。結果は見事にこれを再現した.
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