AlTiNコーティング工具によって、焼入れ金型材料のエンドミル加工が可能になっているが、同じ硬さあるいは機械的性質が同程度であっても、被削材料の材質が工具摩耗に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。熱間鍛造用工具鋼SKD61は比較的快削性であり、現状では問題なく加工できる。さらに一番長い工具寿命を示す切削速度が毎分150m付近にあり、かなりの高能率で切削することができる。一方SKD11材は明らかに難削性を示し、工具寿命が極端に短くなる。毎分数十mの低速で加工を行うと、工具寿命が著しく伸びることも明らかになった。これら摩耗の原因を金属組織の面から詳細に検討した結果、SKD11には工具のコーティング薄膜に匹敵する非常に硬い炭化物が点在するために、特に高速で加工した場合、炭化物が工具に衝突してチッピングを誘発し工具寿命が短くなったことが明らかになった。したがって低速で切削した場合には、炭化物を削るのではなく押し退けながら加工することにより、寿命がかなり長くなる。被削材の機械的工具性質と工具寿命を議論する場合には、被削材のマクロ的な硬さより、炭化物のようなミクロ的硬さを考慮すべきである。 さらに耐熱性の高いDH31材料を加工した場合、工具摩耗は主に溶着で進行するために、低速側で寿命が短く、毎分400m付近の切削速度で寿命が最長となる。工具のコーティング膜は被削材に対する相性があり、硬さが要求される場合、小さな摩擦係数が要求される場合、耐熱性が要求される場合、化学的安定性が要求される場合などがある。 全体的に、焼入れ材料の工具摩耗形態は、従来の焼鈍材料を加工したときのものとは大きく異なり、逃げ面が摩耗するというより、すくい面と逃げ面か同時に摩耗して、刃先が鈍化する傾向にある。
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