研究概要 |
工具の寿命判定には逃げ面摩耗幅がよく使用される.ところがAlTiNコーティング工具で焼入れ鋼を加工すると工具の刃先が丸くなったり,すくい角がマイナス側に摩耗する現象が起こっている.当初生材と焼入れ材の被削材の違いが工具摩耗に影響をすると考えられていたが,コーティングによる影響であることが明らかになった.すなわち,コーティング工具を作製するとき,成膜をする前に超硬合金の表面をクリーニングする必要がある.これは表面の汚れを取るだけでなく,膜の密着強度を上げる効果があるとされてきた.この処理をスパッタリングまたはボンバード処理と称するが,工具のように刃先エッジ部が鋭い場合には,プラズマの集中が起こり母材が損傷を受けることが今回明らかになった.その損傷の大きさないし深さは数十ミクロンであり,今までは見過ごされていた.ところが,ノンコートのエンドミルとそれにボンバードのみをほどしたエンドミルで切削実験を行なうと,明らかに摩耗形態が異なることが,今年度の研究で明らかになった.すなわちAr+のような重い原子でボンバードを行なうと,母材にダメージを与えてしまい,刃先部分が変質して強度低下が起こり,切削初期の段階で先端が丸く摩耗することが明らかになった.ノンコートのエンドミルでは,焼入れ材を加工しても,従来から言われているように逃げ面摩耗幅が大きくなって寿命に達する. 今年度はc BNコーティング工具の開発も行ない,エンドミルの摩耗形態について検討を行なった.c BNコーティング膜は多くの企業が試作を重ねてきたが実用化に失敗している.c BNはダイヤモンドに次ぐ硬さを持っていること,摩擦係数が0.2程度(TiAlNは0.7程度)と小さく,切削熱の発生が少ない=同じ工具形状の場合切削抵抗が小さい,耐酸化性が高く,鉄系材料とも反応し難いという特徴を持っている.したがって切削工具としては,理想的な物質と考えられている.バルク材としてc BNは多く使用されているが,高価なためにc BNを使用することで無人化や自動化が図れる場合や連続運転ができるなど,トータルコストで考えた場合にメリットが出るところで使用されている.今回c BNコーティング膜を開発しているのは,価格的に安価になるからである.摩耗形態はAlTiNコーティング工具と同じような様相を示している.
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