研究概要 |
本研究では,表面改質皮膜の高機能化のための一つの方法として,溶射を含む粒子分散型の複合表面改質法を取り上げるとともに潤滑性析出物の分散によるステンレス鋼の摩擦・摩耗の改善について検討した.本年度の研究で得られた結果は以下の通りである. 1.粒子分散複合表面改質の構造解析モデルを構築し,弾性率の小さい粒子を分散させた場合めっき層に大きな応力が発生すること,粒子間距離が小さいほど応力は大きいこと,セラミックスのような弾性率の大きい粒子を分散させた場合のめっき層の応力は粒子の影響を受けにくいこと,また,粒子分散率が同じであれば,めっき層内応力に及ぼす粒子径の影響は小さいことを明らかにした. 2.潤滑性を有する析出物分散によるステンレス鋼の摩擦・摩耗特性を,大気中無潤滑下,真空中無潤滑下および油潤滑下において調べた.大気中無潤滑下では,析出物分散ステンレス鋼の摩擦係数および摩耗量は従来鋼の場合より小さかった.真空中無潤滑下では,析出物分散ステンレス鋼は低摩擦でありかつ潤滑性を有すため凝着の度合いも小さく優れた摩擦・摩耗特性を示した.油潤滑下では,析出物分散ステンレス鋼では初期焼付きが破壊的焼付きに進展しにくく,優れた耐焼付き性を示した.本研究により,潤滑性の分散析出物によりステンレス鋼の摩擦・摩耗が改善されることが明らかとなった. 3.2.3%TiO_2を混合したアルミナセラミックス溶射を施した鋼ローラを用いて油潤滑下で純転がり疲れ試験を行い,溶射皮膜の転がり疲れ強さを調べた.また,ナノインデンテーション法に基づいて溶射皮膜の縦弾性係数を評価し,損傷形態と内部応力との関係について検討した.損傷した溶射ローラは,表面下のき裂発生に起因するスポーリング損傷の形態を呈した.表面下の最大せん断応力および直交せん断応力の最大値の発生深さは溶射皮膜内にあった.観察されたスポーリングき裂の発生深さは解析で求めたせん断応力が最大となる深さとほぼ一致した.この結果は溶射皮膜の最適厚さ設計に有用である.
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