OA機器やAV機器などにおける静音性の要望が強まり、静音性に優れたプラスチック歯車が多用されるようになっているが、コストの面から射出成形プラスチック歯車の需要がますます高まっている。国内で使用される射出成形プラスチック歯車の材料の多くが結晶性のポリアセタール樹脂であり、成形用金型に接する溶融樹脂は急冷されて成形変質層が形成される。一般にこのような成形変質層は有害であるとの理由で、変質層を消去するための熱処理を加えることがある。しかし、われわれは比較的軟質な変質層は静音性に効果があることを指摘してきた。本研究では製造段階から意図する厚さの変質層を有するプラスチック歯車の製造技術上の資料を得ることを目的として、射出成形条件によって射出成形プラスチック歯車の成形変質層への影響を解析した。解析ではポリアセタールホモポリマーとコポリマーについて、各成形条件による変質層厚さを硬さ試験および偏光顕微鏡写真観察から求めるとともに、熱収縮による精度への影響についても調べた。さらに、動力試験機を用いて、歯車のかみ合い時における騒音値および磨耗についても調べた。本研究より、射出条件の中でもシリンダー温度と型温度との差が小さい歯車ほど、歯車の収縮率は小さく、さらに変質層厚さも薄いことが判明した。また、騒音値においてはこれらの歯車では高い騒音値を示す傾向があった。これに対し、ポリアセタールホモポリマーとコポリマーのいずれの歯車においても変質層の厚さが厚い歯車同士のかみ合いでは騒音値が低い傾向を示した。歯車の磨耗では変質層の薄いコポリマー歯車においては磨耗が少ないが、変質層の厚いホモポリマー歯車では磨耗量が多くなる傾向を示した。
|